日本人が海外の舞台で成功するために必要なこと。中堅デザイナーたち8人の答えからはブランドの哲学とデザイナーの人柄がにじみ出す。
日本人デザイナーのブランドは今、パリやミラノといった世界の舞台で大きな注目を集めている。もはやメンズウェアの潮流をけん引するといっても過言ではないほど、世界中のバイヤーやプレスから熱い視線を注ぐ。興味深いのは、30〜40代の中堅デザイナーたちが、先人たちの築いた“日本ブランド”のイメージに寄せることなく、それぞれの美学と得意分野を武器に世界と向き合っていることだ。
デザイナーたちは日本人デザイナーとして何を大切にし、どのような思考でクリエイションに向き合っているのか?。海外でコレクションを発表するデザイナー8人に、2027年春夏コレクションのショー開催直後に聞いた。
オーラリー:岩井良太
オーラリーデザイナーの岩井良太
「ブランドの理念やクリエイションに共感してくれる仲間を増やすことが大切。ブランドに関わる人たちが同じ方向を向いていることが大きな力になります。同時に、周囲の意見に振り回されるのではなく、自分が本当に作りたいものを貫くことも重要。誰かの言われた通りにして後悔するより、自分が信じるものに挑戦した方が納得できますし、その姿勢こそがブランドの個性につながると思います」
オーラリー2027年春夏コレクションのショーは3部構成で、バカンス前の浮き立つ心情を表現する、程よく崩したスーツルックで始まった。旅先で出会う文化や色彩を楽しむ開放感、さらにその記憶を日常へ持ち帰り、デイリーウエアにリゾートのムードをさりげなく差し込んだ。南国を思わせるモチーフやジュエリー、バリエーション豊かなシューズなど新たな挑戦を取り入れながらも、ブランドらしい親しみやすいエレガンスは揺るがない。日常をエレベートし、装いを通して“半歩前へ踏み出す”気持ちを後押しするコレクションだった。

オーラリー2027年春夏コレクション

オーラリー2027年春夏コレクション

シンヤコヅカデザイナーの小塚信哉は顔出しNG
「日本人ならではの良さを見せること。ただしその“日本人らしさ”は、先人たちが築いてきたイメージとは必ずしも同じではありません。僕自身は海外で学んだ経験(2013年セントラル・セント・マーチンズ ファッション学部メンズウェア学科を卒業)が礎になっており、それが日本を外側から捉える視点にもつながりました。だからこそ、ルーツとしての日本的な感性と、海外で培った価値観をどう掛け合わせるかが大切だと考えています」
シンヤコヅカは、1月にイタリア・フィレンツェのピッティ・イマージネ・ウオモで海外でのショーデビューを飾り、今シーズンは初めてミラノ・メンズ・ファッションウィークに参加した。着想源は、コンタクトレンズを失って見た、ぼやけた景色や故郷の記憶。透け感のあるロングシャツや抽象的なペインティング、スズメや“Homecoming”のモチーフで、現実と記憶が溶け合う詩的な世界を描いた。伝統を重んじるミラノでも独自の感性で存在感を示し、この街での経験が今後のクリエイションにどう結実するのか期待が高まる。

シンヤコヅカ2027年春夏コレクション

シンヤコヅカ2027年春夏コレクション

キディルデザイナーの末安弘明
「一着の服が持つ強い個性。僕の場合は、オリジナリティ溢れる創造性を生み出すことが、デザイナーとしての役目です」
キディルは“CHAOTIC DISCORD”を掲げ、パンクカルチャーの引用から一歩踏み込んで、服の構造や時間性に焦点を当てた。ダーツで生み出す歪んだシルエットや再構築したタータンに加え、安全ピンと特殊塗料を重ねたデニムやスウェットは、着用を重ねることで下に隠れたパーツやグラフィックが現れる。さらにジューシー クチュールとの協業では、2000年代のギャルカルチャーを誇張したようなフォルムで当時のスタイルを再解釈する。破壊と経年変化をデザインへ昇華し、服が時間とともに完成していく表現で、ブランドの新たな一面を印象づけた。

キディル2027年春夏コレクション

キディル2027年春夏コレクション

「自分にしかない強みを突き詰めること。自分にとっては、生地開発が最大の武器であり、世界で戦うためにより追求していくべきだと実感しています」
ヨークの持ち味は、アートと日常をつなぐクリエイション。そこに、シルエットや生地開発などシーズンごとに変わる“最大の武器”を加える。海外でのショーは2回目となる今季は、シュルレアリスムの芸術家メレット・オッペンハイムが着想源だ。あえて春夏らしくない、季節感をずらした質感や錯覚を生む素材使いでシュルレアリスムの表現を探究。刺しゅうで描いたヘリンボーンや、オーガンジーのジャカードに糸を飛ばしてファーのような質感を作り出した。コーデュロイ風のプリントや、まるでデニムのようなエンボス加工を施したレザー、和紙を思わせるドライな風合いのニットなど、素材の見え方や触感を巧みに操る。デザイナー自身の生活とリンクするかのように、現実と錯覚が交錯する世界観を描いた。



ソウシオオツキデザイナーの大月壮士
「納得いくまで追及する姿勢です。前シーズンは、ラックにかかった時の服の佇まいに自分で納得がいかなかった。だから、今シーズンは生地と色彩に注力しました」
2025年にLVMHプライズを受賞後、2026年1月にピッティ・イマージネ・ウオモでの華々しい海外ショーデビューを経て、初めてパリ・メンズの公式スケジュールでコレクションを発表した。ハワイ旅行を夢見た少年時代の記憶を着想源に、ブランドの軸である“ソフトテーラリング”はさらに進化。新たな試みとして、オリジナル素材や20年以上前の生地を復刻・再構築したファブリックを国内で生産した。経糸と緯糸を変えた先染めや後染め、ウォッシュ加工によって時間の経過を思わせる豊かな表情を引き出し、旅先で肩の力が抜けたようなディテールを織り交ぜながら、夏を軽やかに過ごすスーツスタイルを提案した。

ソウシオオツキ2027年春夏コレクション

ソウシオオツキ2027年春夏コレクション

シュタインデザイナーの浅川喜一朗
「国内外を問わず、展示会でバイヤーやプレスと交わす会話や、その場の空気感には多くの発見や気づきがあります。彼らが何に引かれ、どこに価値を見いだしてくれるのかを感じ取ることは、コレクションを見つめ直す貴重な機会。一方で、そうした声に耳を傾けながらも、ブランドの美学が揺らぐことはありません。柔軟な姿勢でアップデートしていくことを大切にしています」
シュタインがパリ・メンズに参加するのは4シーズン目。慌ただしい一日が始まる前の穏やかな朝の時間から着想して、肩肘張らない洗練性を研ぎ澄ませたコレクションとなった。朝日を思わせる淡いイエローやアースカラーを中心に、流麗なテーラリングと繭のように柔らかいシルエットを融合。片方だけタックインしたシャツや立てた襟、無造作に留めたラップスカートなど、寝起きの余韻を思わせるスタイリングも響き渡る。素材使いにもこだわり、洗えるシルクや超軽量スエード、新開発のコットン・ヘンプデニムなど、質感への徹底したぶりがブランドらしい上質な日常着を際立たせた。

シュタイン2027年春夏コレクション

シュタイン2027年春夏コレクション

ダブレットデザイナーの井野将之
「特に意識していることはありません。舞台がどこであろうと、僕らには僕らのやり方しかできない。ただ自分たちらしく、信じるモノづくりを続けるだけ」
ダブレットは、朝から夜まで、一日の時間の移ろいと共に変化する人物像を描いた。制服姿から原宿スタイルへ変わる少女や、コンビニ店員からフードデリバリー配達員、プーマとの協業では猫を連れた飼い主など、ユーモア溢れるキャラクターが次々と登場。コーヒーカップ形バッグや日焼け風タイツなど遊び心のある小物を散りばめる一方、リサイクル炭やバナナ繊維、木材由来の素材など革新的なファブリックを採用した。日常の多層性とサステナビリティを軽やかなユーモアで描くブランドらしい内容に、会場は終始笑顔に包まれた。

ダブレット2027年春夏コレクション

ダブレット2027年春夏コレクション

ベッドフォードデザイナーの山岸慎平
「必ずしもパリでの発表にこだわっているわけではありません。その時々の自分のムードや、コレクション、見せ方を含めて、自分自身が面白いと思えるものを追求することを大切にしています。僕はファッションを専門的に学んだわけでも、有名ブランドで修業を積んだわけでもありません。だから、日本人デザイナーという枠組みを意識するのではなく、一人の人間としてモノづくりに向き合い、自分にしか生み出せない表現を探し続けています」
ベッドフォードは、イタリア・チンクエテッレで目にしたレモンの木と二人の婦人の風景から、「豊かさとは何か」を問い直した。ボタンを開けたテーラリングやゆったりとしたトラウザー、ジャンプスーツで、ブランドの美学である肩の力を抜いたエレガンスを、より柔らかなムードを感じさせる。そこにレモン柄のシルクシャツやメッセージプリントを配したTシャツなど、ベッドフォードには珍しいモチーフで愛嬌あるアクセントをプラス。デザイナーの心情ともリンクしているのだろう。緑豊かな中庭にジャズバンドの生演奏が響き渡り、コレクションが描く“豊かさ”を体感するようなショーだった。

ベッドフォード2027年春夏コレクション

ベッドフォード2027年春夏コレクション
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